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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)7613号 判決

原告 同栄信用金庫

理由

一、《証拠》によれば、原告と訴外会社との間に昭和四一年一一月二九日、原告主張にかかる内容(但し損害金の定めを除く)を含む手形貸付、手形割引、証書貸付等の金融取引契約が結ばれ、その際訴外会社の経理担当者訴外前川太平、同老沼邦男が被告の代理人として原告・訴外会社間の取引約定書の連帯保証人欄に被告の記名及び実印による捺印をなし、連帯保証契約をした事実を認めることができ、右認定に反する証拠はないけれども、被告が右連帯保証契約に付き、右訴外人らないし訴外会社に対し代理権を与えた事実を認めるに足る証拠はない。

二、進んで表見代理の主張について考える。《証拠》によると、いわゆる同族会社であつた訴外会社は被告を含む株主に対する配当金につき昭和三四年八月頃と、同三七年三月一四日頃の二回にわたり、配当金相当額を原告から借入れ、右借入金をもつて株主名義の定期預金口座を原告金庫四谷支店に取組むと同時にこれを訴外会社の原告に対する右借入金の担保として差入れるという操作をなし、右配当金が経理上未払金として計上されることにより税制上の難点が生じることを防ぐと共に、株主に対する配当金の利子の支払をなしていたこと、被告も訴外会社の右処理を承認していた事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。右の事実によれば、被告は訴外会社が原告に預金するに際し被告名義を使用することを許諾したに過ぎないというを相当とするから、これをもつて原告の主張するように、被告の定期預金につき担保設定契約をなす代理権を訴外会社に与えたものということはできない。仮にこれが認められるとしても、原告には以下に述べるとおり、民法一一〇条所定の正当事由が存在しないから、いずれにしても表見代理の主張は失当である。すなわち、本件取引契約締結当時原告は被告が訴外会社の代表取締役である訴外永田兼雄の実弟で、かつ同社の取締役であること(この事実は当事者間に争がない)を知つており、本件取引約定書には前記のとおり訴外会社の経理担当者により被告の実印が押印され、かつ《証拠》によれば、本件取引約定書が原告に差し入れられた当時原告が融通する金額の限度、保証期限の記載はなされておらず、また原告が被告に対し保証意思の確認をしなかつたことが認められる。

このように、代理行為の相手方が金融機関で、当該代理行為によつて経済上の利益を受ける者が代理人の勤務する訴外会社であり、かつ右代理行為により本人の負担すべき金額の限度等が定められていない場合には、特に代理権についての調査が困難である等特段の事情がない限り、たとえ代理人が本人の実印及び印鑑証明書を所持しており、本人が主たる債務者の取締役である等特別の関係者であるときにも、なお相手方は代理権の有無について直接本人にたしかめる義務を負うものというべく、この義務を尽くさなかつたときは、民法一一〇条所定の正当の理由はないものというべきである。

そして右特段の事情を認めうる証拠はない。

三、更に進んで追認の主張について判断するに、《証拠》に照らして措信できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

四、以上の次第であつて被告の連帯保証の事実が認められない以上、原告の請求は理由がないこと既に明らかであるからこれを棄却

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